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前橋家庭裁判所桐生支部 昭和55年(家)180号 審判

申立人 大木田ヨシ子 外一名

事件本人 大木田文二

主文

事件本人を禁治産者とする。

事件本人の後見人として左の者を選任する。

本籍 前橋市○○町×丁目×××番地

住所 前橋市○○町×丁目×番××号

大木田忠夫

昭和一二年五月二六日生

理由

一  禁治産宣告の申立について

鑑定人○○○作成の鑑定書によれば、次の事実が認められる。すなわち、事件本人は昭和五二年七月滅裂性言動、幻覚妄想、異常体験、独語等の症状により精神分裂病と診断され、以来今日まで現住所の○病院精神科病棟に入院療養中である。現在の症状としては、滅裂性思考、幻覚妄想、漠然とした侵入被害妄想、奇妙な体感幻覚、多弁、非現実的妄想が関連しての世界変容、異常体験による単純計算間違い、自閉的生活、ときに興奮があるが、病識は欠如しており、思考障害を中心とした妄想型の精神分裂病の欠陥状態にある。知能は、ビネー式で知能年齢六歳一〇か月プラスアルファー、知能指数四三プラスアルファーである。

右事実によれば、事件本人は心神喪失の常況にあると判断しうるので、本件禁治産宣告の申立は理由がある。

二  後見人選任の申立について

事件本人には妻申立人大木田正子がいるので、禁治産宣告をなせば、民法八四〇条により申立人正子が当然に後見人となる筈である。しかしながら、家庭裁判所調査官○○○○○作成の調査報告書、申立人正子に対する審問の結果によれば、申立人正子は事件本人が入院した昭和五二年七月から、当時まで事件本人と居住していた桐生市の自宅を退出し、実姉を頼つて伊勢崎市の現住所へ引越し、以来事件本人と何ら交渉をもたずに、その療養看護等の責任を果さないできており、後見人就任を拒否するのみならず事件本人と早期に離婚することを決意している事実が認められる。

右事実によれば、申立人正子に事件本人の財産を管理する等の事務の適正な遂行を期待することは事実上困難であり、かつ後見人辞任の申立を為す事態を予測すべきであるのみならず、事件本人の身分行為能力の程度からして申立人正子が事件本人との離婚を請求する訴を提起すれば、民法八四六条五号により当然に後見人である地位を失うこととなるから、いずれの場合も事件本人に後見人がいない状態となるので、次の後見人が選任されるまでの間事件本人の利益保護を欠くこととなる。

他方、前記調査報告書及び大木田忠夫に対する審問の結果によれば、同人は事件本人の兄であるところ、不十分ながら事件本人のために衣類等の差入れをしており、申立人正子が後見人とならない場合は自ら後見人に就任する意向であることが認められる。

以上の事実によれば、事件本人の財産管理等後見事務を現実に全うするためには、民法八四〇条の規定にもかかわらず、同条の例外として、禁治産宣告と同時に配偶者以外である兄忠夫を後見人に選任することが許されると解するのが相当である。

よつて本項申立は理由がある。

(家事審判官 杉本順市)

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